庭に柿の木が植えてある。従姉妹の大学入学を機に、祖父が植えたそうだ。誰に似たのか可愛らしい顔立ちの娘で、祖父にとってははじめての女の子の孫だった。そんな事もあって、とても可愛がっていたように思う。
祖父はシャイな人だった。残っている写真には、笑った顔なんて1つもない。
とは言っても、普段話している時には、子どものような満面の笑みを見せる事があった。決まって家族といる時で、家族の話題を話している時だ。
生前、「おれは最期には、誰にも看取られず、寂しく死んでいくんだろう」と話していてそうだ。若い頃から仕事一筋で、色んな苦労をしてきた人だ。
祖父に限らず、戦争を経験してきた人はみな、似たようなものだと思う。
最期の瞬間は祖父の思う通りにはならず、妻と娘と、義理の娘、それから孫である僕に看取られて息を引き取った。
人の死の瞬間に触れたのはあれが最初で、あれ以降まだ経験がない。
綺麗な死に様だった。電子音が止まっていくとともに、ゆっくり瞼を閉じはじめた。
最期の最期に、娘の呼ぶ声に反応して目を開き、それからゆっくりと、やはり瞼を閉じて帰らなくなった。
庭の柿の木に、虫が集まっていた。ハエのようにブンブンと飛び回って、木の周りに集まっていた。
そんな風景を見て、あー、じいちゃん死んじゃったもんな、としみじみ思った。