2023/01/06【4】焦りと怠けと頭痛とやる気のなさ
■歴史の分水嶺
E.トッド 「我々はどこから来て、今どこにいるのか?」の刊行を受けて
アングロサクソンによる覇権のゆらぎ
英米の「核家族」は最も原始的な家族構造だが、最も先進的な社会を築きあげた
西側メディアさ中ロの専制主義陣営を遅れた存在とみなしがちだが、そこには「ロシア嫌い」や「ロシア恐怖症」に囚われ見落している点がある
•アングロサクソン的なものが破綻した後には、ロシア的なものが新しい活力として浮上してくる
ソ連崩壊からのロシアの復活
人口統計から見た社会の安定化
背景としての家族構造
共同体家族社会と、キリスト教の影響による女性の地位の高さ
→創造的でダイナミック(中国も共同体家族社会だが、女性の地位は低い)
■プーチンのヴァイダル演説
・「ロシア系住民の保護」→「ゼレンスキー政権は傀儡にすぎず、主たる敵は米国を中心とする西側連合」
・ソ連崩壊による欧米一極集中とその終わり
・世界的秩序の地殻変動、歴史の分岐路
「彼らは今、道徳、宗教、家庭を徹底的にに対する方向に進んでいます。」
「西側エリートの独裁は、西側諸国の国民を含むすべての社会に向けられています。」
「このような人間の完全否定、信仰と伝統的価値観の破壊、自由の抑圧は、「宗教を逆手に取った」、つまり完全な悪魔崇拝の特徴を帯びているのです」
「民族や文明の特殊性を尊重することは、すべての人の利益に適います。」
「西側少数民族の文化的独自性に対する権利は、もちろん保障されるべきであり、敬意をもって扱われるべきですが、他のすべての人々の権利と同等であることを強調しておきたいと思います。」
■個人至上主義の終わり
・「集団」なくして「個人」は「個人」であり得ない。英米の超個人主義の誤りは、「集団」なくして「個人」が存在する、という考え
・一方でホモ・エコノミクスであっても、その行動を規定するものとして、家族、宗教、国家といった枠組みが存在
・「個人の自立」も公的扶助制度により可能となる。イギリスが確立
■世界で普遍的役割を担うロシア
・西洋エリートの「集団抜きの絶対的個人主義」に対する「集団主義的」「先制主義的」(例:ロシア恐怖症)
→個人のアトム化と社会的連帯の喪失、国家が方向性を見失い虚無感に襲われる「西洋」
・普遍主義的特殊主義
英米の覇権主義が、逆説的にもロシア史に新たな普遍的意味合いを与えている
あらゆる文明、あらゆる国家がそれぞれのあり方で存在する権利を認める
→プーチンはロシアの特性を「宗教」と捉えている一方、トッドは「家族システム」であるとする
・ウクライナ戦争の責任
米国とNATOの対応で避けられた戦争。武器だけ供与しウクライナ人を人間の盾にしてロシアと戦争をしていることは批判されるべき。一方で、ロシアの侵略や、ウクライナがネイションとして存在する権利をロシアが脅かしたことは批判されるべき
■発言には勇気がいる
・高坂正堯の国際関係における三つの体系
・価値の体系、利益の体系、力の体系
日本においては、
価値の体系では、米国やG7と一体化してロシアを非難
利益の体系では、G7では唯一ロシアの航空機に対して自国の領空を開放。シベリア上空からヨーロッパへの移動の利益。現在は貨物機のみ
力の体系では、防衛装備移転三原則が紛争当事国への武器輸出を禁止しており、ウクライナへの兵器輸送は行っていない
■日本は「米国の保護領」
・日本は「米国の保護領」であり、「独立国」としての自由や自律性を享受していない
・人類学的に見れば日本の気質はアングロサクソンとは正反対
・日本は「保護領」からの脱却を本気で考える時期が来る←米国の危うさ
■「戦前」と「戦後」をトッド理論で読み解く
「国際関係」と「家族関係」
日本、ドイツの直系家族「子供たちは不平等、人々は不平等、諸国民は不平等」
戦前、「兄は弟より発言権を持って当然だ」
日本がアジアの長兄として、他国を従えるというロジック
アジア全域には通じず、「アジアは一つ」にまとめられず敗戦
戦後、伝統的な家族のあり方を「封建的」
と否定し、核家族に理想を見出す
しかし直系家族に由来する価値観はそう簡単に消えない
戦前「アジアの長兄」として振る舞った日本は、戦後「アメリカの弟分」となった
ロシアの「普遍主義的特殊主義」に対して、日本は自国の独自性のみ追求する「特殊主義的特殊主義」
■深刻な中国の人口問題
ロシアと比較して中国が覇権を握る可能性が低い五つの理由
一、女性の地位の違い
ロシアの方が女性の地位が高く、よりダイナミックな社会であること
二、出生率の低さ
1.16人
三、新生児の性比
中国の新生児は、女児100人に対して男児118人の歪んだ構造
自然状態では女児100人に対して男児105,6人とされる
四、人口規模からして人口減少を移民で賄うことはできない
五、高等教育を受けた人口割合と社会不安定化
ロシアが既に経験済みだが、中国はこれから
■英国のインテリジェンスの劣化〜パブリッスクールの変質
・ウクライナ戦争に関して、英国のインテリジェンスはプロパガンダと区別がつかない
・エリートの劣化
エリート文化は寄宿制のパブリックスクールで培われる
理不尽な苦痛に耐える地力と体力と精神力を鍛えてきた
今では富裕層の子息のための居心地のよい避難所
加えて国内産業基盤を再生するための具体策がなく、エンジニアもいない
■ドイツにも戦争を仕掛けた米国
・EUにおけるドイツの影響力を「脅威」とみなした米国により、日本と同じように「米国の保護領」化
・対露制裁で最も打撃を受けるのはドイツの産業界
・ドイツと同じく英米の同盟国である日本に対しても、同じことが起こりうる
■ポーランドの動きに注意せよ
NATO主要メンバー:米、英、仏、独→ 米、英、ポーランド、ウクライナ
ロシアは英米中心文明のあり方に抵抗する保守の極を成しつつある。そしてそのやり方を他国に押し付けない。
日本は閉じこもりがちだが、自身の価値観を押し付けない「特殊主義的特殊主義」として謙虚な態度そのものが世界へのメッセージとなる